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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)5632号 判決 1988年3月24日

原告

株式会社トーメン

右代表者代表取締役

北村恒夫

右訴訟代理人弁護士

清木尚芳

榊原正峰

山田俊介

松浦武

鈴木吉五郎

畑村悦雄

小林俊明

射手矢好雄

松本岳

被告

三菱商事株式会社

右代表者代表取締役

岸本一二

右訴訟代理人弁護士

田中章二

被告

紅安衣料株式会社

右代表者代表取締役

碇清次

被告

碇清次

被告

井出征一

右三名訴訟代理人弁護士

出官靖二郎

福本基次

被告

守口倉庫株式会社

右代表者代表取締役

小西萬一

右訴訟代理人弁護士

渡部孝雄

主文

一  被告三菱商事株式会社、同紅安衣料株式会社、同碇清次および同井出征一は、各自原告に対し、金一億一三四七万四九九一円およびこれに対する昭和五五年八月六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告紅安衣料株式会社、同碇清次および同井出征一は、各自原告に対し、金九四二万九一二四円およびこれに対する前同日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告三菱商事株式会社、同紅安衣料株式会社、同碇清次および同井出征一に対するその余の請求ならびに被告守口倉庫株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告に生じた費用の三分の一と被告守口倉庫株式会社に生じた費用を原告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告三菱商事株式会社、同紅安衣料株式会社、同碇清次および同井出征一に生じた費用を右被告らの負担とする。

五  この判決は、主文第一、二および四項につき仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは、各自原告に対し、一億二五三二万五五四〇円およびこれに対する昭和五五年八月六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  当事者

(一) 原告および被告三菱商事株式会社(以下、「被告商事」という。)は、いわゆる総合商社である。

(二) 被告紅安衣料株式会社(以下、「被告紅安」という。)は、繊維衣料品の製造販売を業とする会社であり、被告碇清次(以下、「被告碇」という。)は、被告紅安の代表者であり、被告井出征一(以下、「被告井出」という。)は、昭和五四年八月二日から昭和五五年八月八日まで被告紅安の代表者の地位にあったものである。

(三) 被告守口倉庫株式会社(以下、「被告倉庫」という。)は、倉庫業法五条による大臣許可のほか、同法一三条による倉庫証券発行についての大臣許可をも有する倉庫業者であり、門真市大字一番六六四に門真営業所倉庫(以下、「門真倉庫」という。)を有するものである。

2  本件事実関係

(一) キャラクター商品の取引

被告紅安は、昭和五四年一一月頃から被告商事との間で、胸の部分に漫画の主人公等を描いたシャツ等の衣類(以下、「キャラクター商品」という。)の取引を継続的に行っていたが、右取引では、被告紅安が被告商事において商品の引渡場所として指定した門真倉庫に向けて、寄託者を被告商事として商品を出荷し、被告倉庫は、被告紅安から商品の引渡を受けると直ちに被告商事を寄託者とする入庫手続を行い、これによって商品が被告紅安から被告商事に現実に引渡されていた。

原告は、昭和五五年二月二七日頃から右キャラクター商品の売買取引に介入し、原告が被告紅安から商品を買受けてこれを被告商事に転売することになったが、商品の引渡方法には変化がなかった。すなわち、商品は被告紅安から門真倉庫へ直送されており、ただ被告商事に対する直接の売主が原告であるため、被告紅安が原告の占有代理人として、被告商事の代理人である被告倉庫に商品を引渡していた。そして、被告紅安は原告に対し、被告倉庫発行の入庫報告書または商品受領書を添付して請求書を送り、原告は、右入庫報告書等によって商品が被告商事に引渡されたことを確認し、被告紅安に商品代金を支払っていた。

(二) 本件各商品の取引

(1) 被告紅安は、原告との間でブリーフ・ショーツ類商品を原告に売却し、原告がこれを内外衣料製品株式会社(以下、「内外衣料」という。)に売却するという取引を継続的にしていたが、昭和五五年五月頃被告井出は、原告大阪本社ニット第一部アンダーウエアー課課長吉川洋司(以下、「吉川課長」という。)に対し、ブリーフ・ショーツ類商品についても原告介入後のキャラクター商品と同様、原告を介して被告商事に売却したいとの申入をしたので、吉川課長は、被告商事の承諾があれば、原告として異存はない旨回答した。

その後、被告紅安の経理担当者である松田武雄(以下、「松田」という。)は、同年六月一一日頃原告を訪れ、アンダーウエアー課の担当社員地平宏(以下、「地平」という。)に対し、被告商事が取引を了承したとして、ブリーフ・ショーツ類商品取引の開始およびその第一回目取引の申込をしてきたので、地平はその場で被告商事大阪支社衣料第一部織編地第一課主任谷口恒明(以下、「谷口」という。)に対し、キャラクター商品と同じ形態でブリーフ・ショーツ類商品を出荷していくので引受を頼む旨連絡したところ、同人もこれを了承し、ここにブリーフ・ショーツ類商品についての原告と被告商事との間の取引が成立した。また、被告井出は、出荷の前日谷口および被告倉庫の担当者山道正信(以下、「山道」という。)に対し、明日からブリーフ・ショーツ類を門真倉庫へ出荷する旨通知した。

(2) 被告紅安は、昭和五五年六月一四日および同月一六日に別表1記載の商品(以下、「商品1」という。以下、別表記載の商品の呼称はこれに準じ、「商品2」、「商品2(イ)」などという。)を被告商事宛で同表記載の日にそれぞれ門真倉庫に入庫した。

被告紅安は、その発行にかかる納品書および被告倉庫発行の商品受領書を添付して原告に商品1の代金を請求したので、地平は同月一七日頃谷口に対し、前記入庫を通知して買取を確認したところ、谷口はすでに入庫の事実を知っており、売買は社内稟議申請中であるが、許可がおり次第支払手続をする。取引が行われることは間違いない旨返答した。そこで、原告は、同月一八日頃被告紅安に商品1の代金一六七六万二六〇一円を支払い、被告商事に対し、仕入伝票および前記商品受領書の写を添付して請求書を送付した。

(3) 被告紅安は、昭和五五年六月二〇日から同月二五日にかけて商品2(イ)を、同月二六日、二七日に商品2(ロ)を、同月三〇日から同年七月二日にかけて商品2(ハ)を前回と同様の手順で別表2記載の日にそれぞれ門真倉庫に入庫した。

被告紅安は、前回と同様原告に対し、右商品(商品2)の代金を請求したので、原告はそのつど被告商事に対して入庫を通知し、買取を確認したところ、谷口は前回同様、取引は間違いない旨返答した。そこで、原告は被告紅安に対し、同年六月二七日に商品2(イ)の代金三五五四万三〇〇二円、同月三〇日に商品2(ロ)の代金七〇七万七五六〇円、同年七月三日に商品2(ハ)の代金一六九八万一二八三円をそれぞれ支払い、被告商事に対しては、そのつど、前回と同じ書類を添付して請求書を送付した。

(4) 被告紅安は、昭和五五年七月四日に商品3をこれまでと同様の手順で同日門真倉庫に入庫した。

被告紅安は、これまでと同様商品3の代金を請求したので、原告が被告商事に買取を確認したところ、同様の返答が得られた。そこで、原告は被告紅安に対し、同月八日に商品3の代金四六八万一四二一円を支払い、被告商事に対しては、これまでと同じ書類を添付して請求書を送付した。

(5) 被告紅安は、昭和五五年七月七日から同月一七日にかけて商品4をこれまでと同様の手順で別表4記載の日にそれぞれ門真倉庫へ入庫した。

被告紅安は、これまでと同様商品4の代金を請求したので、原告は被告商事に買取を確認したところ、谷口は、稟議はおりたが売先と打合わせをしているのでもう少し待ってほしい、六月末までの入庫分は七月二三日まで仕入を計上し、できれば七月末に代金を支払う旨返答し、原告との間で請求金額を確認し合った。

ところで、原告と被告紅安とは、前記のとおり従来から原告がブリーフ・ショーツ類商品を被告紅安から買上げてこれを内外衣料に売却する取引を行っていたが、被告碇および同井出は、右取引に関し、同年四月二九日頃、運送会社である福山通運株式会社(以下、「福山通運」という。)の受領印を偽造し、同社が被告紅安から内外衣料宛の商品を預った旨の虚偽の送り状を作成して同月三〇日に原告に提出し、被告紅安から内外衣料に商品が出荷されたものと原告を誤信させ、同日商品代金名下に一四五七万円の支払を受けたほか、同年七月八日頃にも同様の方法により一五一三万二五九〇円の支払を受けるという不正行為を行った(以下、「福山通運事件」という。)。同月一四日頃右事実が発覚したので、原告は被告碇にこれを質したところ、被告碇は同月一七日に右事実を認め、右代金は今後原告に商品を納入することで穴埋めする旨誓約するとともに、商品4の代金支払を同月一八日に行うよう懇請した。そこで、原告はこれを了承し、同日商品4の代金二七九二万一〇三一円の内金二三〇〇万円を支払い、残金四九二万一〇三一円は右商品代金返還請求権と対当額で相殺した。そして、被告商事に対しては、これまでと同様仕入伝票および前記商品受領書の写を添付して請求書を送付した。

(6) 被告紅安は、昭和五五年七月二二日から同月二五日にかけて商品5をこれまでと同様の手順で別表5記載の日にそれぞれ門真倉庫へ入庫した。

被告紅安は、これまでと同様原告に対し、商品5の代金を請求したので、原告は被告商事に買取を確認したところ、谷口は内外衣料と取引の交渉中である旨回答した。そこで、原告は被告紅安に対し、同月二五日に他の売掛金とともに、商品5の代金一〇八六万二二七一円を前記商品代金返還請求権と対当額で相殺した。そして、被告商事に対しては、これまでと同じ書類を添付して請求書を送付した。

(7) 被告紅安は、昭和五五年七月二六日および同月二八日に商品6をこれまでと同様の手順で別表6記載の日にそれぞれ門真倉庫に入庫した。

被告紅安は、これまでと同様原告に対し、商品6の代金を請求したので、原告は被告商事に買取を確認した結果、回答を得られた。そこで、原告は被告紅安に対し、同月三一日に商品6の代金三〇七万四九四六円を前記商品代金返還請求権と対当額で相殺した。そして、被告商事に対しては、これまでと同じ書類を添付して請求書を送付した。

(8) このように、原告は商品1ないし6(以下、「本件各商品」という。)を順次被告紅安から買受け、代金合計一億二二九〇万四一一五円を支払ったから、右商品につき所有権を有している。

(三) 被告碇らによる本件各商品の搬出行為

(1) 被告紅安は、昭和五五年七月二四日に原告に対し、同月末の資金繰りのため四〇〇〇万円の融資を申入れたが、原告は同月二八日に右申入を拒絶した。

そこで、被告碇らは、門真倉庫に保管中の本件各商品につき被告商事から原告への代金支払が未了であることに着目し、これを取戻して他に転売し、資金化することを企て、同月末頃から被告商事に対し、強引に本件各商品の返還を要求する一方、原告に対しては、同年八月一日に不良品発生検品を理由として、本件各商品について返品の赤伝票を送付した。

また、被告商事大阪支社衣料第一部織編地第一課課長渡部哲男(以下、「渡部課長」という。)は、同年七月三一日にこれまでの態度を一変し、本件各商品については被告商事は一切関与しないとの態度を原告に表明した。

(2) 原告は、同年八月一日に被告碇らに対し、本件各商品について原告の所有権を侵害する行為をしないよう警告した。そして、被告商事に対しては、原告衣料本部長兼ニット第一部長打海英孝(以下、「打海本部長」という。)が同日および同月四日に被告商事大阪支社を訪れ、応対に出た衣料第一部長安田五一郎(以下、「安田部長」という。)に対し、被告紅安に本件各商品を引渡さないよう強く要求したところ、安田部長は本件各商品の保全を約束した。

(3) それにもかかわらず、被告商事及び被告倉庫は、合意のうえ、前記のとおり実質上は被告商事が本件各商品を占有していたのに、被告紅安が当初から寄託名義人であったように遡って処理し、昭和五五年八月五日被告紅安に本件各商品を引渡し、被告紅安は、門真倉庫から本件各商品を搬出してその頃他に売却、処分した。

(4) 原告は、被告碇および同井出らの右搬出によって本件各商品を失い、その結果、右商品の被告商事への売却価格である一億二五三二万五五四〇円相当(その明細は、別表1ないし6記載のとおりである。)の損害を受けた。

3  被告らの責任

(一) 第一次主張

前記事実関係によると、ブリーフ・ショーツ類商品の取引は、原告が介入した後のキャラクター商品の取引と同じ形態である。すなわち、被告商事は門真倉庫で、原告が被告紅安から買受け所有権を取得した本件各商品を原告の占有代理人である被告紅安から引渡されることによってその占有を取得し、以後は寄託者として被告倉庫にこれを保管させていたものである。

したがって、右事実関係のもとでは被告らは、原告の本件各商品の喪失につき、次のとおり責任がある。

(1) 被告碇および同井出

被告碇及び同井出は、本件各商品が原告の所有であることを知りながら共謀のうえ、被告商事の社員である渡部課長および谷口ならびに被告倉庫の社員である山道らの加担を得て本件各商品を門真倉庫から搬出して処分し、原告の所有権を侵害したから、いずれも民法七〇九条により原告の前記損害を賠償すべき責任がある。

(2) 被告紅安

右(1)の被告碇および同井出の不法行為は、右被告碇らがいずれも被告紅安の代表取締役として、その職務を行うにつきしたものであるから、被告紅安は、民法四四条により原告の前記損害を賠償すべき責任がある。

(3) 被告商事

(イ) 商法五一〇条違反

原告は、前記のとおり本件各商品が門真倉庫に入庫するごとに被告商事に売買契約を申込み、これとほぼ同時に本件各商品の占有を被告商事に移転したから、被告商事は、かりに本件各商品を買取らない場合にも、商法五一〇条によりこれを保管すべき義務がある。

ところが、被告商事は、右保管義務があるのに、これに違反し、被告碇らが本件各商品を搬出するのを許容したから、これによって原告に生じた前記損害を賠償すべき責任がある。

(ロ) 使用者責任

被告商事の従業員である渡部課長および谷口は、前記のとおり本件各商品が原告の所有であることを知悉していたから、これに対する侵害行為の存在を知った場合には、これを阻止すべき義務がある。それにもかかわらず、右渡部らは、被告碇らが本件各商品を不法に搬出して処分しようとしていることを知りながら、これを阻止せず、かえって右搬出行為に加担して原告の所有権を侵害した。

右渡部らの不法行為は、被告商事の事業執行につきなされたものであるから、被告商事は民法七一五条により原告の前記損害を賠償すべき責任がある。

(ハ) 原告は、右(イ)および(ロ)を選択的に主張する。

(4) 被告倉庫

被告倉庫の従業員である山道らは、本件各商品が原告の所有であること、被告商事が本件各商品の寄託者であることおよび被告碇らが本件各商品を不法に搬出して処分しようとしていることをいずれも知りながら、被告商事と共謀のうえ、前記のとおり本件各商品の寄託者が当初から被告紅安であるかのように仮装し、右外形事実を口実に本件各商品を被告紅安に引渡し、もって原告の所有権を侵害した。

右山道らの不法行為は、被告倉庫の事業執行につきなされたものであるから、被告倉庫は民法七一五条により原告の前記損害を賠償すべき責任がある。

(二) 第二次主張

かりに、原告所有の本件各商品を門真倉庫で保管していたのが被告紅安であったとすれば、被告らは、原告の本件各商品の喪失につき、次のとおり責任がある。

(1) 被告碇および同井出

被告碇および同井出は、本件各商品が原告の所有であることを知りながら、共謀のうえ、本件各商品を門真倉庫から搬出して処分し、原告の所有権を侵害したから、いずれも民法七〇九条により原告の前記損害を賠償すべき責任がある。

(2) 被告紅安

右(1)の被告碇および同井出の不法行為は、右被告らがいずれも被告紅安の代表取締役として、その職務を行うにつきしたものであるから、被告紅安は、民法四四条により原告の前記損害を賠償すべき責任がある。

(3) 被告商事

(イ) 本件各商品の受領等に関する債務不履行

① 商法五一〇条違反

商法五一〇条は、物品の送付を受けた商人に当該物品の受領義務までも規定したものと解すべきであるところ、原告は前記のとおり被告商事に売買契約を申込み、これと相前後して被告紅安が被告商事のために本件各商品を引渡場所である門真倉庫に入庫しているから、被告商事は、本件各商品を買取らない場合にも、商法五一〇条により、原告が適宜の処置をとるまではこれを受領すべき義務がある。

ところが、被告商事は右受領義務に違反し、本件各商品を受領しなかった。

② 合意に基づく送付商品受領義務違反

原告と被告商事および被告紅安との間では、昭和五五年五月から同年六月一一日までの間に、本件各商品については、被告紅安がキャラクター商品の取引と同様、寄託者を被告商事として門真倉庫に入庫し、商品が入庫した場合には被告商事がこれを受領して保管の責に任ずる旨の合意が成立していた。

ところが、被告商事は右受領義務に違反し、本件各商品の受領を拒絶した。

③ 信義則上の受領義務ないし受領拒否告知義務違反

原告は、被告紅安の資金事情から被告紅安と被告商事間の本件各商品の取引に介入したにすぎず、本件各商品は被告紅安から被告商事の指定した門真倉庫に直送されていたから、原告はかりに売買が成立しない場合にも、門真倉庫に搬入された商品は被告商事がこれを受取り、寄託者となるものと理解しており、このことは被告商事も知っていた。したがって、かりに右①および②の義務が認められないとしても、被告商事は門真倉庫に搬入された本件各商品を受領すべき信義則上の義務があり、もしこれを受領しない場合には、右受領拒否を直ちに原告に告知すべき信義則上の義務がある。

ところが、被告商事は、右信義則上の受領義務ないし受領拒否告知義務に違反し、本件各商品の受領を拒否し、これを原告に告知することも怠った。

(ロ) 信義則上の制止義務違反

前記のとおり、被告碇らは、本件各商品の搬出の同意を再三にわたり被告商事に求めていたが、被告商事は、昭和五五年七月三一日以降原告から再三にわたり本件各商品の保全の要請を受けており、被告碇らによる本件各商品の搬出を制止することも可能であったから、これを制止すべき信義則上の義務がある。

それにもかかわらず、被告商事は右義務に違反し、被告碇らが本件各商品の搬出の準備に着手したのを知りながらこれを制止しなかったばかりか、原告にこれを知らせず、右搬出を放置した。したがって、被告商事はこれによって原告に生じた前記損害を賠償する責任がある。

被告商事の右①ないし③の義務違反の結果、本件各商品は被告紅安の占有下に置かれ、前記のとおり被告碇らに搬出されてしまったから、被告商事はこれによって原告の受けた前記損害を賠償すべき責任がある。

(ハ) 使用者責任

被告商事の従業員である安田部長、渡部課長および谷口は、被告碇らが本件各商品を搬出するのを知りながらこれを許し、もしくは前記(イ)および(ロ)の各注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、その結果原告は本件各商品の所有権を侵害されたのであるから、右安田部長らの行為は不法行為に該当するところ、これらは、被告商事の事業執行につきなされたものであるから、被告商事は民法七一五条により原告の前記損害を賠償すべき責任がある。

(4) 被告倉庫

被告倉庫の従業員である山道らは、前記のとおり本件各商品の真実の寄託者は被告紅安であったのに、本件各商品が被告商事宛で入庫した旨の物品受領書の発行を続けたため、原告をして、本件各商品は被告商事が寄託者となって保管しているものと誤信させた。その結果、原告は本件各商品について適切な所有権保全措置をとる機会を失い、本件各商品の所有権を侵害されてしまった。

右山道らの不法行為は、被告倉庫の事業執行につきなされたものであるから、被告倉庫は民法七一五条により原告の前記損害を賠償すべき責任がある。

4  よって、原告は被告らに対し、各自不法行為または債務不履行に基づき、本件各商品の価格相当額である一億二五三二万五五四〇円およびこれに対する不法行為または債務不履行の日の後である昭和五五年八月六日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否および主張

1  被告紅安、同碇および同井出(以下、「被告紅安ら三名」ともいう。)

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二)(1) 同2(一)の事実は認める。

(2) 同(二)について

(イ) 同(1)ないし(4)の各事実は認める。

(ロ) 同(5)第一段の事実は認める。同第二段のうち、被告紅安が原告に商品4の代金を請求したことは認め、その余の事実は知らない。同第三段のうち、原告が商品4の代金の一部として二三〇〇万円を被告紅安に支払ったことおよび原告が被告商事に商品4の代金を請求したことは認め、その余の事実は否認する。

被告紅安が商品を納入せずに原告から代金を受領したことはあったが、昭和五五年四月の件は、内外衣料に納入しようとしたが受領されなかった商品につき、被告紅安の担当者が原告に返品の赤伝票を交付するのを失念し、決済が行われたという事務手続上の過誤であり、同年七月の件は、納入予定の商品の代金を納期の一〇日前に受領したというもので、いずれも原告の主張するような不正行為ではない。

(ハ) 同(6)前段の事実は認める。同後段のうち、被告紅安が原告に、原告が被告商事にそれぞれ商品5の代金を請求したことは認め、その余の事実は否認する。

(ニ) 同(7)のうち、原告が被告紅安に対し、商品6の代金につき納入代金返還請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは否認し、その余の事実は認める。

(ホ) 同(8)のうち、原告が本件各商品の所有権を有するとの点は争い、その余の事実は認める。

(3) 同(三)の事実は否認する。被告紅安は、昭和五五年八月五日被告商事から本件各商品の返品を受け、これを門真倉庫から搬出し、同日赤伝票を原告に送付した。

(三) 同3(一)冒頭部分および同(1)、(2)ならびに同(二)冒頭部分および同(1)、(2)の各主張は、いずれも争う。

(四)(1) 原告と被告商事との間では、被告紅安が門真倉庫に本件各商品を入庫するつど売買契約が成立し、これによって本件各商品の所有権は、被告紅安から原告を経由して被告商事に移転した。

したがって、被告紅安が被告商事から本件各商品の返品を受けても、原告の所有権を侵害することにはならない。

(2) 被告紅安は、被告商事から本件各商品の返品を言渡されたので、速やかにこれに対処すべく、原告に対して赤伝票を送付して返品の報告と手続を取るとともに、商品の最終買取先である内外衣料の納期に遅れないよう、本件各商品を門真倉庫から搬出して内外衣料に納入した。そして、本件各商品に関する原告との残金の清算は、その後被告紅安が原告に納入する商品代金と相殺することを考えていた。したがって、被告碇らの右行為は何ら違法ではない。

2  被告商事

(一) 請求原因1(一)の事実は認める。同(二)のうち、被告井出が被告紅安の代表取締役であったことは知らない。その余の事実は認める。同(三)の事実は認める。

(二) 同2について

(1) 同(一)のうち、原告が昭和五五年二月二七日頃から被告商事との間で、原告においてキャラクター商品を被告紅安から買受けて被告商事に転売し、商品は被告紅安から被告商事へ直送するという取引を行ったことは認める。原告と被告紅安との取引関係は知らない。その余の事実は否認する。

原告と被告商事間の右売買は継続的取引ではなく、予め品番、数量、単価、納期等の契約内容を定めて行われる断続的取引であった。

(2) 同(二)について

(イ) 同(1)前段の事実は知らない。同後段の事実は否認する。

(ロ) 同(2)ないし(6)のうち、原告がそれぞれ被告商事に商品1ないし5の代金を請求したことは認め、その余の原告と被告商事との折衝は否認する。その余の事実は知らない。

本件各商品は、当初被告紅安が被告商事宛で被告倉庫に入庫したが、被告商事が被告倉庫に対し、右商品の受領を拒否したので、被告倉庫は被告紅安との間で寄託契約を締結した。したがって、被告商事は、本件各商品の占有を取得していない。

(ハ) 同(7)前段の事実は認める。同後段のうち、原告が被告商事に商品6の代金を請求したことは認める。被告商事が原告に商品6の買取を確認したことは否認する。その余の事実は知らない。

(ニ) 同(8)は争う。

(3) 同(三)の事実は否認する。

(4) 元来ブリーフ・ショーツ類商品の取引は、被告紅安と内外衣料との取引に原告が介入したものであるが、原告は右取引に被告商事を介在させることを希望し、その意を受けた被告紅安が被告商事にその旨申入れた。そこで、被告商事は原告に対し、右取引を行うためには、社内稟議を経ることが必要であり、許可がおりなければ取引はできない旨伝え、原告もこれを了承した。その後、原告から請求書が送付されたが、被告商事は、売買契約を締結できるかどうかが判明するまで、請求書を返送せずに留保してきた。しかし、最終的には内外衣料との取引条件が整わず、契約締結には至らなかった。

また、被告商事と被告紅安との間のキャラクター商品の取引では、事前に包括的取引契約を締結したうえ、被告商事が販売先からの注文を受けてこれを被告紅安に注文し、被告紅安は商品を販売先に直送するか被告倉庫に入庫していた。そして、被告倉庫を使用する場合には、被告倉庫と被告紅安が事前に包括的取引契約を締結し、その後も被告紅安は事前に被告倉庫に対し、入庫の事実および入庫後は被告商事が商品を受領、寄託する旨連絡し、入庫後は被告倉庫が入庫報告書を作成して被告商事に送付していた。そして、右手続は原告の介入後も同様であった。ところが、本件各商品では、包括的取引契約はおろか、事前の協議すらなされておらず、確認書も作成されていないなど、右キャラクター商品のような手続は行われていない。

なお、被告商事は被告紅安から商品6を買受けたが、それは、継続的取引によるものではなく、被告紅安が倒産すると、被告商事の商品の売却先である清水保が連鎖倒産するおそれがあったので、それを防止するためにしたものである。

したがって、原告と被告商事との間では、本件各商品の売買契約は成立していない。

(三) 同3(一)冒頭部分および同(3)ならびに同(二)冒頭部分および同(3)の各主張はいずれも争う。

(四) 被告商事の責任の不存在について

(1) 原告の第一次主張に対する反論

(イ) 前記のとおり、被告商事は、本件各商品の占有を取得していないから、これを前提とする原告の第一次主張は、そもそも失当である。

(ロ) 商法五一〇条は、商人が契約の申込とともに商品を受領した場合に、当該商人に商品の保管義務を課しているが、申込を受けた商人に対する商品の受領義務までも規定したものではない。ところで、本件では、被告商事は前記のとおり、本件各商品の受領を拒絶し、引渡を受けていないから、商法五一〇条所定の保管義務を負わない。

(ハ) 被告商事は、被告紅安が本件各商品を搬出することに何ら加担していない。また、前記のとおり、本件各商品を入庫し、保管していたのは被告紅安であるから、被告商事が被告紅安による右搬出を制止する義務はない。したがって被告商事は、搬出行為への加担または制止義務違反を理由に不法行為責任を負ういわれはない。

(2) 原告の第二次主張に対する反論

(イ) 右(1)(ロ)と同じである。

(ロ) 被告商事は、原告の主張するような保管受領義務を負う旨の合意を原告および被告紅安との間で交わしていないから、合意による本件各商品の受領義務はない。

(ハ) 前記のとおり、被告紅安は、被告商事の承諾はもとより、事前の連絡もなく、大量の本件各商品を被告倉庫に入庫したから、被告商事は信義則上右商品を受領する義務はない。また、被告商事は前記のとおり、被告倉庫に対し、本件各商品を受領しない旨の意思表示を明確にしたから、信義則上その旨を原告に告知する義務はない。

(ニ) 受寄者である被告倉庫が寄託者である被告紅安に本件各商品を引渡すことは、寄託契約を締結した右両者間の法律関係によるもので、契約の当事者でない被告商事が介入する余地のない事項であるから、被告商事は、被告紅安による本件各商品の搬出を制止すべき信義則上の義務を負わない。

(ホ) 前記のとおり、被告商事の社員には債務不履行ないし義務違反はなく、その行為は不法行為に該当しないから、被告商事が使用者責任を負ういわれはない。

3  被告倉庫

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2について

(1) 同(一)の事実は知らない。

(2) 同(二)(1)ないし(7)のうち、本件各商品が門真倉庫に入庫されたことは認め、その余の事実は知らない。同(3)の事実は知らない。

(3) 同(三)(1)および(2)の各事実は知らない。同(3)のうち、被告倉庫が本件各商品を被告紅安に引渡したことは認め、その余の事実は否認する。

(三) 同3(一)冒頭部分および同(4)ならびに同(二)冒頭部分および同(4)の各主張はいずれも争う。

(四) 被告倉庫は、被告紅安を当初から受寄者として本件各商品を預り保管したものであり、被告商事との間では寄託契約を締結していない。商品6は、事後に被告商事が預入を認めたので、被告商事を受寄者として受領した。したがって、被告倉庫が被告商事と共謀して寄託者を被告紅安であるかのように仮装した事実はない。

寄託者である被告紅安は、昭和五五年八月四日に被告倉庫に対し、全量出荷指図書を呈示し、同年七月分までの本件各商品の倉庫料金九〇万七八一九円を支払ってこれを引取にきたので、被告倉庫はこれを被告紅安に引渡した。なお、被告倉庫は、同年八月六日に大阪地方裁判所の同月四日付け仮処分決定の送達を受けるまで、原告が本件各商品に介在していることを知らなかった。

したがって、被告倉庫は、原告に対する損害賠償責任がない。

第三  証拠<省略>

理由

一当事者について

1  請求原因1(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  同(二)の事実は、原告と被告商事を除くその余の被告らとの間で争いがなく、被告商事との間では、被告紅安が繊維衣料品の製造販売を業とする会社であることおよび被告碇が被告紅安の代表者であることは争いがなく、その余の事実については、成立に争いのない乙第九号証によりこれを認めることができる。

3  同(三)の事実は、当事者間に争いがない。

二本件事実関係

1  <証拠>を総合すると、以下の事実が認められ、<証拠>中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし採用できず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  被告紅安は、昭和五四年一一月頃から被告商事との間でキャラクター商品の取引を行っていたが、その取引方法は、被告紅安が被告商事から予め商品引渡場所として指定された、被告倉庫が保有する門真倉庫に向けて寄託者を被告商事として商品を出荷し、被告倉庫では、被告紅安から送られてきた商品の引渡を受けると、直ちに被告商事を寄託者として入庫手続を行うというものであった。

ところで、被告紅安と原告は、昭和五一年頃から原告がブリーフ・ショーツ類商品を被告紅安から買上げて内外衣料に売却する取引をしていたが、被告紅安は当時資金状況が悪く、右キャラクター商品の取引における被告商事の決済条件が厳しいため資金繰りに支障をきたすおそれがあったので、決済条件のよい原告に対し、右キャラクター商品の取引にも介入するよう依頼した。そこで、原告は昭和五五年二月二七日頃からキャラクター商品の取引の一部に介入し、被告紅安から商品を買受けて被告商事に転売した。しかし、右取引でも商品の引渡方法には変化がなく、被告紅安は、被告倉庫から交付された商品受領書を添付して原告に代金を請求し、原告は、右受領書により商品が被告商事に引渡されたことを確認して、被告紅安に商品代金を支払っていた(原告と被告紅安ら三名との間では、被告紅安と被告商事間のキャラクター商品の取引、被告紅安と原告間のブリーフ・ショーツ類商品の取引および原告が介入後のキャラクター商品の取引の各形態ならびに右の各取引の開始時点は、いずれも争いがない。原告と被告商事との間では、原告が昭和五五年二月二七日頃からキャラクター商品の取引に介入し、原告が商品を被告紅安から買受け、これを被告商事に転売する取引を行っていたことは、争いがない。)。

二(1)  被告紅安の代表者であった被告井出と原告大阪本社ニット第一部アンダーウエアー課の吉川課長は、昭和五五年五月頃被告商事の承諾がえられるならば原告と被告紅安間のブリーフ・ショーツ類商品の取引に被告商事を加え、原告介入後のキャラクター商品の取引と同様、原告が被告紅安から商品を買受け、被告商事に転売し、商品は被告紅安が直接被告倉庫に入庫するという形態の取引をする方向で検討することに合意した。

その後、被告紅安の経理担当者である松田が同年六月一一日頃原告大阪本社を訪れ、アンダーウエアー課の担当社員地平に対し、被告商事が取引を了承したとして、ブリーフ・ショーツ類商品取引の開始および第一回の取引を申込んだので、地平はその場で被告商事大阪支社衣料第一部織編地第一課主任谷口に対し、キャラクター商品と同じ形態でブリーフ・ショーツ類商品を出荷していくのでこれを買受けてくれるよう電話連絡をしたところ、谷口は、これを了承するとの趣旨の返答をした(原告と被告紅安ら三名との間では、以上の事実は、争いがない。)。

このように、ブリーフ・ショーツ類商品の取引について、従前被告紅安・原告・内外衣料であった系列に被告商事を加えて、被告紅安・原告・被告商事・内外衣料との系列化が図られたのは、被告商事が介入することにより取引量が増加することが期待されることに加えて、被告紅安としては決済条件のよい原告からの支払をえられることで資金繰りに余裕ができるし、原告としては自己のマージンは減少するものの信用のある被告商事に売却するのであるから安心であるといえ、一方、被告商事としても取扱量が増大して利益が上るということが期待されたからである。そこで、被告商事の担当社員である谷口、その上司である渡辺課長らは積極方向で検討することとし、社内稟議にも上げ、原告らには支払は稟議がおり次第にする旨告げていた。

(2)  被告紅安は、昭和五五年六月一四日および同月一六日に、被告倉庫宛の納品書(甲第一五号証の一ないし四)の宛名の肩書に被告商事または同被告気付と付記したうえそれを添付して商品1を門真倉庫に出荷し、右商品は別表1記載の日にそれぞれ門真倉庫に入庫した。被告井出は、右出荷の前日に谷口および被告倉庫の担当者山道に対し、ブリーフ・ショーツ類商品を出荷する旨事前に通知している。

被告紅安は、同月一六日原告宛の商品1の納品書(甲第一号証の二)および被告倉庫発行の被告紅安宛の受領書(被告倉庫宛の前記納品書とワンライティングで作成された受領書に被告倉庫の受領印を押捺したものであり、左上部分に「守口倉庫(株)」と記載され、その肩書に「三菱商事」または「三菱商事気付」と記載されている。以下被告倉庫発行の受領書について同じ。)(<証拠>)を添付して原告に対し、右商品の代金を請求したので、地平は同月一七日頃谷口に対し、前記入庫を通知して買取を確認したところ、谷口はすでに入庫の事実を知っており、売買稟議申請中であるが、同月末にはおりる見込である旨回答した。そこで、原告は同月一八日頃被告紅安に商品1の仕入代金一六七六万二六〇一円を支払い、被告商事に対しては、仕入伝票(<証拠>)および前記受領書の写を添付して売却代金(一七〇一万七八七〇円)の請求書(<証拠>)を送付した(原告と被告紅安ら三名との間では、右事実は被告倉庫宛の納品書の記載および被告商事への売却代金を除き、争いがない。原告と被告商事との間では、原告が被告商事に請求書を送付したことは争いがない。原告と被告倉庫との間では、被告紅安が商品1を門真倉庫に入庫させたことは争いがない。)。

(3)  被告紅安は、いずれも被告倉庫宛の納品書(<証拠>)の宛名の肩書に被告商事と付記したうえこれを添付して、昭和五五年六月二〇日から同月二五日にかけて商品2(イ)を、同月二六、二七日に商品2(ロ)を、同月三〇日から同年七月二日にかけて商品2(ハ)をそれぞれ門真倉庫に出荷し、右商品は別表2記載の日にそれぞれ同倉庫に入庫した。

被告紅安は、同年六月二五日から同年七月一日にかけて三回にわたり、商品2の納品書(<証拠>)および被告倉庫発行の受領書(<証拠>)を添付して原告に対し、右商品の代金を請求したので、地平はそのつど谷口に対して電話または口頭で被告商事の支払期日を尋ねたところ、谷口は同年六月中には、稟議が同月末にはおりる予定である旨、同年七月に入ってからは、同月一五日までに稟議がおりる予定である旨、それぞれ返答した。そこで、原告は同年六月二七日に商品2(イ)の仕入代金三五五四万三〇〇二円、同月三〇日に商品2(ロ)の仕入代金七〇七万七五六〇円、同年七月三日に商品2(ハ)の仕入代金一六九八万一二八三円をそれぞれ支払い、被告商事に対しては、三回にわたり、仕入伝票(<証拠>)および前記受領書の写を添付して売却代金(商品2(イ)につき三六二六万八三七〇円、商品2(ロ)につき七二二万二〇〇〇円、商品2(ハ)につき一七三二万七八四〇円)の請求書(<証拠>)を送付した(原告と被告紅安ら三名との間では、右事実は被告倉庫宛の納品書の記載および被告商事への売却代金を除き、争いがない。原告と被告商事との間では、原告が被告商事に請求書を送付したことは争いがない。原告と被告倉庫との間では、被告紅安が商品2を門真倉庫に入庫したことは争いがない。)。

(4)  被告紅安は、被告倉庫宛の納品書(<証拠>)の宛名の肩書に被告商事と付記したうえこれを添付して、昭和五五年七月四日に商品3を門真倉庫に入庫し、そのころ右商品の納品書(<証拠>)および被告倉庫発行の受領書を添付して原告に対し、右商品の代金を請求した。そこで、原告は同月八日に商品3の仕入代金四六八万一四二一円を支払い、被告商事に対しては、仕入伝票(<証拠>)および前記受領書の写を添付して売却代金(四七七万六九六〇円)の請求書(<証拠>)を送付した(原告と被告紅安ら三名との間では、右事実は被告倉庫宛の納品書の記載および被告商事への売却代金を除き、争いがない。原告と被告商事との間では、原告が被告商事に請求書を送付したことは争いがない。原告と被告倉庫との間では、被告紅安が商品3を門真倉庫に入庫したことは争いがない。)。

(5)  被告紅安は、被告倉庫宛の納品書(<証拠>)の宛名の肩書に被告商事と付記したうえこれを添付して、昭和五五年七月七日から同月一七日にかけて商品4を出荷し、同商品は別表4記載の日に門真倉庫に入庫し、そのころ右商品の納品書(<証拠>)および被告倉庫発行の受領書(<証拠>)を添付して原告に対し、右商品の代金を請求したので、地平は谷口に対し、商品買取を確認したところ、谷口は稟議はおりたが売却先の内外衣料との間で交渉中なので、代金の支払はもう少し待ってほしい、同年七月二三日までに内外衣料に対する仕入を計上できれば、同年六月末までの入庫分は同年七月末に代金を支払える旨返答した。そこで、地平と谷口は、商品1ないし3の合計金額を相互に確認した。

ところで、原告と被告紅安は、原告が被告紅安からブリーフ・ショーツ類商品を買上げて内外衣料に売却し、商品は被告紅安が原告の指定する西尾倉庫または内外衣料に入庫するという取引も行っていたが、原告は内外衣料への直送分については、被告紅安の資金繰りの便宜上、内外衣料へ商品を発送したとの運送会社の受領印のある送り状の呈示があれば、被告紅安に対し、商品代金を支払っていた。

ところが、原告が商品代金を被告紅安に支払ったにもかかわらず、商品を受領していなかったことが昭和五五年四月二九日頃(支払額一四五七万円)および同年七月初め頃(支払額一五一三万二五九〇円)の二回あったことが同月一四日に判明し、さらに、同年四月の例では、被告紅安の係員が送り状に福山通運の集荷車内に置かれていた同社の集荷印を無断で押捺し、福山通運発行の送り状(<証拠>)として、これを原告に呈示していたことも判明した。そこで、原告は被告紅安が不正行為を行い、売買代金を詐取したものと判断し、被告碇および同井出を呼んで事情を質したところ、右被告碇らは事務手続上の過誤によるものと弁解したものの、商品を引渡さずに売買代金を受領したことを認めた。そして、その後の協議の結果、右代金分については、今後被告紅安が原告に売却する商品代金の全部または一部と相殺して清算する旨の合意が成立した。

こうして、原告は、昭和五五年七月一八日に商品4の仕入代金二七九二万一〇三一円の内二三〇〇万円を支払い、残金四九二万一〇三一円は右過払分と対当額で相殺する旨の意思表示を行い、被告商事に対しては、前後四回にわたり仕入伝票(<証拠>)に前記受領書の写を添付して売却代金(二八四九万〇八五〇円)の請求書(<証拠>)を送付した(原告と被告紅安ら三名との間では、被告紅安が右の日に商品4を門真倉庫に入庫し、右のとおり原告に代金を請求したこと、地平と谷口との右交渉および原告が被告紅安に二三〇〇万円を支払い、被告商事に対して商品4の代金を請求したことは、いずれも争いがない。原告と被告商事との間では、原告が被告商事に請求書を送付したことは争いがない。原告と被告倉庫との間では、被告紅安が商品4を門真倉庫に入庫したことは争いがない。)。

(6)  被告紅安は、いずれも被告倉庫宛の納品書(<証拠>)の宛名の肩書に被告商事と付記したうえこれを添付して、昭和五五年七月二二日から同月二五日にかけて商品5を、同月二六日および同月二八日に商品6をそれぞれ門真倉庫に入庫し(商品5の入庫日は別表5、商品6の入庫日は別表6各記載のとおりである。)、いずれもそのころ右の各商品の納品書(<証拠>)および被告倉庫発行の受領書(<証拠>)を原告に送付したので、地平は同月二四日にこれまでと同様、被告商事に対して商品買取の意思を確認したところ、応待に出た大阪支社衣料第一部織編地第一課の渡部課長もこれを了承し、この時点までに門真倉庫に搬出された商品の合計金額を相互に確認した。

そこで、原告は被告紅安に対し、商品5の仕入代金一〇八六万二二七一円および商品6の仕入代金三〇七万四九四六円につき、前記過払分と対当額で相殺する旨の意思表示を行い、これによって代金決済を完了した。なお、原告は右商品についても、被告商事に対し、仕入伝票(<証拠>)および前記受領書の写を添付して売却代金(商品5につき一一〇八万三九五〇円、商品6につき三一三万七七〇〇円)の請求書(<証拠>)を送付しているが、これらが送付されたのは、昭和五五年八月五日頃である(原告と被告紅安ら三名との間では、被告紅安が右の日に商品5および6を門真倉庫に入庫し、右のとおり原告に代金を請求したこと、地平が被告商事に対して右商品の買取を確認したところ、被告商事がこれを了承したことならびに原告が被告商事に対して右商品の代金を請求したことは、いずれも争いがない。原告と被告商事との間では、原告が被告商事に請求書を送付したことは争いがない。原告と被告倉庫との間では、被告紅安が商品5および6を門真倉庫に入庫したことは、争いがない。)。

(7)  このように、原告は被告紅安から本件各商品を合計一億二二九〇万四一一五円で買受け、被告紅安は肩書に被告商事と付記した、被告倉庫宛の納品書とともに、これらを門真倉庫に搬入し、昭和五五年六月一八日以降地平が渡部課長との間で買取を確認した同年七月二四日頃までに、合計一二回にわたり被告商事に対し、商品売却代金合計一億二五三二万五五四〇円の請求書を送付しているが、被告商事は右時点までは、これにつき原告に対し、被告商事は右取引に関与していない等の趣旨の異議を申述べていない。そして、この間被告商事と内外衣料との間では、本件各商品中の個々の商品の取引単価等につき、交渉が進められていた。

(二)(1) ところで、被告紅安は、前記のとおり、従来から資金繰りに窮していたところ、昭和五五年七月二四日に原告に対し、同月末の決済資金のために四〇〇〇万円の融資を要請したが、原告は、被告紅安に対する売掛債権がその時点ですでに一億円を超えていたことなどから、同月二八日にこれを拒絶した。被告碇らは、このころから被告商事に対し、本件各商品を門真倉庫から搬出させるよう要請したほか、同月二九日には被告倉庫に対し、同月三〇日に在庫商品を搬出する旨連絡し、そのため、被告倉庫は、被告紅安の在庫を一旦零とする在庫報告書(<証拠>)を作成した(もっとも、このときは被告紅安が倉庫料を持参しなかったので、被告倉庫は搬出に応じず、結局再び在庫報告書(<証拠>)が作成されたが、その際、後記の被告商事の買上げ商品は右在庫報告書から除外され、別に被告商事を寄託者とする在庫報告書(<証拠>)が作成された。)。そして、右搬出準備に合わせ、被告紅安は同年七月三〇日付けで「不良品発生検品の為返品」を理由として、本件各商品について赤伝票(請求書および納品書、<証拠>)を送付し、右書類は同年八月一日に原告に到達した。

(2) 一方、渡部課長は、昭和五五年七月三一日に至り、本件各商品の代金支払時期を尋ねた地平に対し、これまでとは一変して、被告商事は本件各商品には一切関与していないとの態度を表明した。そこで、地平はこれを上司である衣料本部の打海本部長に報告し、同本部長は右同日、同年八月一日および同月四日の三回被告商事大阪支社を訪れ、応待に出た衣料第一部の安田部長に被告倉庫発行の受領書、原告の売上原票の控等の書類を示し、原告が本件各商品を被告商事に売却しようとしてきたこれまでの事情を説明して被告商事の態度に抗議するとともに、本件各商品を被告紅安に引渡さず原告に返還するよう要求した。これに対して安田部長は本件各商品の存在を認め、売買代金の支払や原告への返還は拒否したものの、本件各商品の保全を約束した。また、打海本部長は同月一日に安田部長との面談後被告碇に対し、本件各商品につき原告の所有権を侵害する行為をしないよう警告したが、これに対して被告碇は、本件各商品を門真倉庫から搬出しようとする強い決意を表明した。

(3) 被告紅安は、昭和五五年八月五日に被告碇、同井出、松田および従業員数名を門真倉庫に赴かせ、荷渡指図書(丁第八号証の三)を作成し、寄託している商品の払渡を請求し、これと前後して、これまでの倉庫料合計一二四万四六五一円を支払って商品1ないし5を同日搬出し、その名義を被告紅安から被告碇の弟が経営する竹藤ソーイング株式会社に変更した。そして、その約半分は内外衣料に納入され、その余は茨木市内に所在する共栄倉庫に搬入された。

(4) その後、被告紅安は昭和五五年八月に手形の不渡を出して経営の破綻をきたし、その営業および工場等は、被告碇がもと代表取締役で、同年七月三一日以降は被告井出が代表取締役である夢前ニット株式会社に承継されて現在に至っている。そして、被告紅安は、現在も存続するが、活動は全く行っていない。

(四) 被告紅安は、原告を介さず被告商事に直接売却するために、本件各商品以外にもブリーフ・ショーツ類商品を門真倉庫に搬入していた。右商品は、被告倉庫宛の納品書ならびに被告倉庫発行の商品受領書および入庫確認書に記載されていたが、被告井出は、原告に本件各商品の代金を請求する際、右商品受領書のうち被告商事宛の商品は抹消し、これを除く商品代金を原告に請求していた。

ところが、前記のとおり、被告紅安は昭和五五年七月末の決済資金に窮したことから、被告商事に商品の買上げを要請した。そして、被告商事は、被告紅安とはキャラクター商品について取引関係があるところ、取引先の清水保が連鎖倒産するのを防止するため、同月末頃、本件各商品とは別個に被告倉庫に保管されていた前記商品および商品6を買上げ、これらについては被告商事を寄託者とする入庫報告書(乙第五号証の一ないし一〇)および在庫報告書(甲第一〇号証の四はその写)が作成された(なお、商品6の入庫報告書は、この時点で被告商事名義に改められた。)。こうして被告商事が買上げた商品については、同年八月五日に被告商事が倉庫料を支払って搬出し、京都市伏見区所在の中央倉庫城南営業所に搬入した。

(五) 山道は、商品1の搬入の際の被告井出らの事前連絡および被告紅安作成の前記納品書の記載により、被告紅安が搬入した商品が被告商事に売却される予定の商品であることを認識し、しかも、被告商事に確認をしたつど、谷口が被告商事において右商品を買受ける方向で検討中である旨回答していたので、本件各商品の寄託名義は近日中に被告紅安から被告商事に変更されるものと予想し、それを見越して昭和五五年六月中は、事務手続上は寄託名義を確定させていなかった。

ところが、同月末に至っても、被告商事は稟議未了との理由で右商品を買受けなかったので、被告倉庫は、倉庫料の請求等の事務手続の必要から、入庫当初から被告紅安を寄託名義人として、コンピューターによる在庫処理を開始した。

2 なお、被告らは、以上とは異なる事実関係を主張するので、そのうち主なものについて判断する。

(一)  被告紅安ら三名

被告紅安ら三名は、福山通運事件は、被告紅安による事務手続上の過誤にすぎず、不正行為ではない旨主張し、被告井出本人(第二回)は右主張に沿う供述をする。しかしながら、右供述は前掲各証拠、特に<証拠>に照らし採用できず、他に被告紅安ら三名の右主張を認めるに足りる証拠はない。

また、被告紅安ら三名は、被告紅安は被告商事から昭和五五年八月五日に本件各商品の返品を受けたので、同日原告に赤伝票を送付し、右商品を搬出した旨主張し、被告井出本人(第二回)は右主張に沿う供述をする。しかしながら、右供述は前掲各証拠、特に<証拠>に照らし採用できず、他に被告紅安ら三名の右主張を認めるに足りる証拠はない。

(二)  被告商事

被告商事は、本件各商品の取引については、社内の稟議がおりなければ、これを進めないとの立場をとっていたので、本件各商品を受領しておらず、原告にもその旨を伝え、了承をえていた旨主張し、<証拠>は右供述に沿う供述をする。しかしながら、右供述は前掲各証拠、特に<証拠>に照らし採用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(三)  被告倉庫

被告倉庫は、本件各商品を被告商事のために預ったことはない旨主張し、証人山道正信は右主張に沿う供述をする。しかしながら、右供述は前掲各証拠、特に証人地平宏の証言および被告井出本人尋問の結果(第一回)に照らすと採用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

三そこで、以上の事実関係を前提に、被告らの責任の存否について判断する。

1  被告碇および同井出

前記のとおり、被告碇および同井出は、本件各商品が原告の所有で、被告商事に売却予定の商品であることを知りながら相謀り、原告に無断でこれを門真倉庫から搬出して処分し(商品1ないし5)、またはこれを被告商事に売却し(商品6)、もって原告所有の本件各商品を侵害したから、いずれも民法七〇九条により原告の受けた損害、すなわち、原告が被告紅安から買受けた本件各商品の仕入価格である一億二二九〇万四一一五円を連帯して賠償すべき責任がある。なお、原告は、被告商事への売却予定価格である一億二五三二万五五四〇円が損害額であると主張するが、前記二の認定事実に照らすと、原告と被告商事との売買は成立に至っていないうえ、当然に成立が見込まれたわけでもなく、しかも結局は不成立に終ったものということができるから、原告の受けた損害額は右仕入価格を限度とすべきである。

ところで、被告碇および同井出は、原告と被告商事間の本件各商品の売買契約は有効に成立しており、本件各商品の所有権は被告商事に移転しているから、その後被告紅安が本件各商品を搬出しても、原告の所有権を侵害しない旨主張するが、前記のとおり、右売買契約は結局成立しなかったというべきであるから、右被告碇らの右主張は採用できない。

また、右被告碇らは、かりに右主張が認められないとしても、被告紅安は被告商事から本件各商品を返品されたために、これを納期までに内外衣料に納入する必要上門真倉庫から搬出したものであるうえ、原告との間では、右返品に伴い、同日中に赤伝票を送付して伝票上の処理をしたうえ、その後の原告と被告紅安との間の本件各商品の代金の清算については、その後被告紅安が原告に商品を納入し、その代金と相殺することで行うことを考えていたから、門真倉庫から本件各商品を搬出したのは何ら違法ではない旨主張する。しかしながら、被告紅安が被告商事からの返品を受けて本件各商品を搬出したものでないことおよびその際被告紅安が原告に赤伝票を送付したものでないことは前記のとおりであるし、前記認定事実、とりわけ、商品搬出前後の被告紅安の資産状況に照らすと、被告紅安が右搬出後原告に対し、売買代金を現実に受領せずに本件各商品に相当する巨額の商品を交付できる状況にあったとは到底認められない。さらに、前記認定のとおり、本件各商品の所有権が原告にある以上、かりに右被告碇らの主張するような事情があるとしても、原告の財産を無断で搬出、処分することを正当化できるものでないことはいうまでもない。したがって、右被告碇らの右主張は採用できない。

2  被告紅安

被告碇および同井出がいずれも被告紅安の代表取締役であったことおよび被告碇らが本件各商品を搬出するなどしたことが原告に対する不法行為を構成することは、前記認定のとおりであるが、前記認定事実に照らすと、右被告碇らの右不法行為は、同被告らがその職務を行うにつきしたものであることが明らかである。したがって、被告紅安は民法四四条により、被告碇および同井出と連帯して原告の前記損害を賠償すべき責任がある。

3  被告商事

(一)  前記認定事実に照らすと、原告と被告商事との間では本件各商品の売買契約は成立しなかったものの、被告商事は、被告紅安が被告倉庫に対して今後本件各商品を被告商事のために占有することを命じ、かつ、これに対して被告商事の従業員の谷口らにおいて黙示の承諾をすることにより、本件各商品の占有を取得したものというべきである。

ところで、被告商事は、商品6を除く本件各商品を受取っていないから、これらの占有を取得していない旨主張し、証人谷口恒明、同渡部哲男および同安田五一郎は右主張に沿う供述をする。しかしながら、右供述は前掲各証拠、特に前記丙第一号証、証人地平宏の証言および被告井出本人尋問の結果(第一回)に照らし採用できず、他に被告商事の右主張を認めるに足りる証拠はない。

また、被告商事は、本件各商品の取引では、キャラクター商品の取引におけるような手続は履まれていないから、被告商事は本件各商品の占有を取得していない旨主張する。しかしながら、右手続の相違から直ちに被告商事が本件各商品を受領していないとはいえないうえ、前記のとおり、本件では被告商事は本件各商品を受領したものと認められるから、被告商事の右主張は採用できない。

(二)  そこで、本件において被告商事に商法五一〇条所定の保管義務に違反する事由があったかどうかにつき判断する。

ところで、民法の原則によれば、契約の申込を受けた者は、申込と同時に物品の送付を受けても、右物品を返送したり保管する義務はなく、ただ申込者から返還請求があればこれに応ずれば足りる。しかしながら、商取引では相手方の承諾を予期して、契約の申込と同時に物品を送付することが少なくないところから、商法五一〇条は、商取引を迅速かつ円滑に進めるとともに、当該商人に対する相手方の信頼を保護するために、商人がその営業の部類に属する契約の申込を受けた場合には、当該商人に申込とともに受取った物品の保管を命じるという、特別の義務を法定している。

そこで、これを本件についてみるのに、被告商事は前記認定のとおり、担当者の谷口らにおいて、順次門真倉庫に送られてきた本件各商品の受領に同意し、原告に対しては、売買契約の締結は間違いなく、代金も確実に支払えること、特に一度は稟議もおりたとまで申向け、原告から十数回にわたり請求書を送付されたのに対しても何ら異議を申述べておらず、被告紅安の本件各商品搬出の意向が表面化した段階で原告からも直接本件各商品の保全の要請を受け、これに同意したにもかかわらず、被告紅安が商品1ないし5を門真倉庫から搬出するのを知りながらこれを制止せず、商品6を始めとする自己の買上げ商品だけは保全したものであるから、右事情の下では、被告商事は商法五一〇条所定の保管義務を尽くさなかったといわざるをえない。

なお、前記のとおり、商品6は被告紅安が原告に売却するとともに、被告商事に対しても売却した商品であるが、前記認定のとおり、被告商事は、商品6についても打海本部長から被告倉庫への入庫の事実を書類を示して指定されているから、遅くともこの時点では、その存在および入庫の事実を十分知りえたものと推認できるから、やはり保管義務を免れることはできない。

(三)  しかしながら、原告は、売買契約が成立していないのに昭和五五年六月一四日頃から同年七月二八日までの間に総額一億二〇〇〇万円余にのぼる本件各商品を被告紅安から順次買受けて被告倉庫に送付させ、しかも、原告自らは被告倉庫に対する特段の連絡もせず、被告紅安に寄託事務等の一切を任せ切りにしていたのであり、被告倉庫発行の受領書の記載等からすると、被告倉庫への寄託手続上は被告紅安が寄託者になっていたこと、すなわち、寄託手続上は被告紅安において単独でその返還手続をとりうる形式になっていたことを原告としては知りうべきであるのに、そのままの手続形式のもとに商品の納入をさせていたのであるから、原告にはこの点において自己所有物の保全につき不用意な面がうかがえる。ところで、前記認定事実に照らすと、被告紅安関係者による本件各商品の搬出という違法行為に関して被告商事の叙上の責任を否定することはできないものの、責任ないしは負担部分の過半が被告紅安らに帰せしめられるべきことは当然である。そして、原告は、商品5および6については、当初から被告紅安に対する過払分を填補するために被告紅安から商品の送付を受け、代金は右過払分との相殺によって決済し、全く新たな出捐をしていないのであるから、これについては、被告商事の信用を利用し、すでに資金繰りの上でも不安のあった被告紅安に対する自己の債権を回収することを期待して被告紅安から商品を買上げたという一面のあることを否定することができない。以上の事実に照らすと、商品5および6については、もともと原告の側にも商品の寄託関係に万全を尽さずに漫然と取引を継続して損害を発生拡大させる一因を与えた過失があるうえに、これによる損害の全額を被告商事に負担させることは、本来は被告紅安から回収すべきであるのにそれが事実上期待できない債権を、原告の不用意に乗じて行われた当の被告紅安関係者の所為を起因として、被告商事から回収することを認めるに等しく、公平の理念に照らし相当でないというべき一面がある。しかしながら他方、被告商事が保管義務を全うしていたならば、原告としては少なくとも商品は保全しえたのであるから、これらの点からすると、商品5および6に関する損害については、原告と被告商事双方の過失を斟酌して五〇パーセントずつ負担させるのが相当である。

また、商品4のうち、原告が過払金と相殺した四九二万一〇三一円相当の商品についても、原告が商品につき特段の注意を払っていないことおよび原告は新たな出捐をしていないことは、商品5および6と事情を異にしないから、商品5および6の場合と同様に、これによる損害の全額を被告商事に負担させることはやはり相当でない。したがって、右商品4の一部(右相殺分)についても、右に準じた斟酌をすべきである。

(四)  よって、被告商事は原告に対し、本件各商品の仕入価格である一億二二九〇万四一一五円のうち、原告が売買代金を過払分と相殺した商品4の一部(四九二万一〇三一円)、商品5(一〇八六万二二七一円)および商品6(三〇七万四九四六円)の合計である一八八五万八二四八円の五〇パーセントである九四二万九一二四円を控除した一億一三四七万四九九一円を賠償する責任があるところ、前記認定事実に照らすと、原告が本件各商品の所有権を喪失したのは、被告商事の本件各商品の保管に関する債務不履行と被告碇らの不法行為とが競合したことに起因するから、被告商事は、被告紅安ら三名と連帯して右損害を賠償すべき責任がある。

3  被告倉庫

(一)  原告は、被告倉庫はその従業員の山道らにおいて、本件各商品が原告の所有であること、被告商事が本件各商品の寄託者であることならびに被告碇らが本件各商品を搬出しようとしていることをいずれも知りながら、被告商事と共謀のうえ、本件各商品の寄託者が当初から被告紅安であると仮装し、これを口実に本件各商品を被告紅安に引渡し、原告の所有権を侵害したことを理由に、原告に対して損害賠償責任を負う旨主張する。しかしながら、前記認定のとおり、本件各商品の寄託者は被告紅安であるうえ、本件全証拠によっても、山道らが本件各商品の所有者が原告であると認識していたことおよび被告商事と共謀して原告主張の仮装行為をしたことを認めるに足りる証拠はない。なお、被告倉庫が昭和五五年六月末まで商品の寄託者を書類上確定していなかったことは前記のとおりであるが、前記認定の事情に照らすと、これをもって、寄託者を当初から被告紅安と仮装したものとみることはできない。

(二)  もっとも、<証拠>によると、原告は、昭和五五年八月五日に大阪地方裁判所に対し、被告商事を債務者、被告倉庫を第三債務者として、被告倉庫から被告商事への本件各商品の引渡等を禁止する仮処分申請(同庁昭和五五年(ヨ)第三三四〇号)を行い、同日原告の右申請を認める仮処分決定が発令されたことおよび被告碇らは、同日に商品1ないし5を搬出する際、原告に右商品を差押えられるかも知れない旨申述べて山道に対し、右商品の名義変更を要請したことが認められる。しかしながら、<証拠>によると、右仮処分決定正本が被告倉庫に送達されたのは、搬出後の同月六日であることが認められるうえ、被告碇らの右発言も、原告と被告紅安との間に何らかの債権債務関係の存在を推測させるものの(証人山道正信も右程度のことは認識していた旨供述する)、本件各商品が原告の所有であることを被告倉庫に認識させるものでなかったことは明らかである。したがって、右の各事実によっても、被告倉庫が前記搬出当時、本件各商品が原告の所有であると認識していたと認めることはできない。

(三)  そして、前記認定事実に照らすと、被告倉庫が本件各商品を被告紅安および被告商事に搬出させた手続には何ら違法はない。

(四)  したがって、原告の被告倉庫に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当である。

四結論

以上のとおり、原告の本件請求は、被告倉庫を除くその余の被告らに対して各自一億一三四七万四九九一円およびこれに対する不法行為または債務不履行の日の後である昭和五五年八月六日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払ならびに被告紅安ら三名に対して各自九四二万九一二四円およびこれに対する不法行為の日の後である右同日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるからこれを認容し、原告の被告商事および被告紅安ら三名に対するその余の請求ならびに被告倉庫に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴訟法八九条、九二条、九三条一項但書、仮執行の宣言につき同法一九六条一項にそれぞれ従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官川口冨男 裁判官田中敦 裁判官古財英明)

別紙別表<省略>

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